ニューロダイバーシティとは?【当事者が解説】
ニューロダイバーシティとは?【当事者が解説】

ニューロダイバーシティとは?【当事者が解説】

ニューロダイバーシティ(Neurodiversity, 神経多様性)は、欧米の当事者運動の中で提唱されてきた、比較的新しい概念です。下の図からも、ニューロダイバーシティが2000年代になってから英語圏で著名になりはじめたことがわかります

▲ GoogleBooksによる検索数のグラフ。1990年代に提唱され、2000年以降に有名になった比較的新しい概念であることが確認できます

「ニューロダイバーシティ」の背景には、「社会モデル」と呼ばれる考え方があります。

※社会モデル とは?

かつて、LGBT+は「精神障害」だと考えられてきました。このように従来は、「医学モデル」と呼ばれる「当事者に何らかの異常や欠陥(障害)があるから『生きづらさ』が生じるので、それを『正常』とされる状態に治すべきだ」という考え方が主流でした。しかし、現在はジェンダーに関する社会の構造的な問題が指摘されています。

同じように、近年はASDやADHDなどに関しても「少数派の発達特性の人にとって生きづらい社会・環境によって『生きづらさ』が生じているので、多様な特性の人に機会が保証される環境に変えるべきだ」という「社会モデル」の考え方が提唱されています。例えばASD(自閉スペクトラム)の特性の短所(症状)として「社会性が低い」という評価がありますが、もしASDの人が多数派の社会であったら、何が「社会性」のある行動かは、ASDの特性に合わせて定義されているのでしょう。仮に、それでも課題になる点があったとしても、それは自閉スペクトラム者の欠陥ではなく、社会問題だとみなされるはずです。逆に自閉傾向が強みになる能力は、ASDではない人の「障害」として見られるかもしれません また、「社会性が低い」とされる傾向は、言い換えれば「同調しない」ということですから、フェイクニュースや情報統制などが問題になる状況下では、同調がマイナスになりうる状況が注目されて「障害」と見なされるかもしれません。

このような発達障害に関する「障害という概念の相対性」の認識を元に、

・様々な特性の人が生きやすい環境

・非定型な特性をもつ人が「正常」とされる状態に適応することを強制されないこと

・特性がプラスになりうる場面にも注目すること

などが提案されています

ニューロダイバーシティの定義

いわゆる「発達障害」などの当事者の多くは、マイノリティの発達特性と社会の標準的な環境・制度・評価基準などの不一致によって、ポテンシャルを発揮できず、「落ちこぼれ」や「悪人」だとみなされたり、いじめられたりしています。

しかし近年の研究では、人類の脳のタイプがとても多様であることや、ASDやADHDなどのマイノリティの脳のタイプのポテンシャル・強みが判明しつつあります。さらに、地球上の生命や生態系の存続には、生物多様性が重要であることがわかってきました。そこで同じように、多様な脳のタイプの人がいること(神経多様性, ニューロダイバーシティ)は文明の存続にとって重要であり、一人ひとりの脳のタイプの違いが、もっと祝福されるような社会を構築していくことが不可欠だというアイデアが提唱されるようになりました。

なぜなら、このような考え方を採用することによって、発達障害を含む神経学的マイノリティの地位を改善していくことができるからです

単なる「発達障害の言い換え」とは異なり、そのようなパラダイム・それに基づく人権運動や支援活動・社会制度などが実践されています

ニューロダイバーシティへの取り組みの例

ニューロダイバーシティは当事者による人権運動として始まったものですが、ここでは便宜上、著名度の高い機関による取り組みを紹介します

スタンフォード大学(アメリカ)の例

  • ニューロダイバーシティに基づく学生へのサポート
  • ニューロダイバーシティに関する講義
  • ニューロダイバーシティに関するイベント(Stanford Neurodiversity Summit など)の主催
  • ニューロダイバーシティに基づく就職支援

などが行われているようです

スタンフォード大学ニューロダイバーシティプロジェクト(https://med.stanford.edu/neurodiversity.html

Microsoft 社によるニューロダイバーシティ型の雇用

創業者であるビル・ゲイツ氏自身がアスペルガー症候群の当事者である、米Microsoft社でも取り組みがあるようです。他にはGoogleやAmazon、SAPなどの取り組みが有名です

英語の採用ページ (https://www.microsoft.com/en-us/diversity/inside-microsoft/cross-disability/neurodiversityhiring)

日本におけるニューロダイバーシティ

筑波大学による取り組み

筑波大学では学生支援にあたりニューロダイバーシティの考え方を採用しています

筑波大学の公式サイトより https://dac.tsukuba.ac.jp/shien/disabilities/developmental_disabilities/

https://dac.tsukuba.ac.jp/shien/disabilities/developmental_disabilities/ニューロダイバーシティ/

アクサ生命による啓発活動

2020年に、アクサ生命がニューロダイバーシティに関する啓発活動を表明しています

https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP532335_S0A400C2000000/

ニューロダイバーシティについて、もっと詳しく知るには?

ニューロダイバーシティの詳細については、様々な人が、それぞれに異なる定義や議論を提唱しているので、様々な資料を読んで見ることがおすすめです!

日本橋ニューロダイバーシティ・プロジェクト

書籍:『ニューロダイバーシティの教科書』

ニューロダイバーシティという概念を初めて提唱した、自閉スペクトラム当事者・社会学者のJudy Singerによる解説(英語)

スタンフォード大学・医学大学院による解説(英語)

ニューロダイバーシティを推進するNPO団体・DiODENのホームページ (このブログも、DiODENのメンバーが執筆しています)

DiODEN代表のX(旧ツイッター)アカウント:

https://twitter.com/Senhana2

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