こんにちは!DiODENのいちいです。代表のYukiの記事に続き、2本目の掲載となります。
- 私の記事では、ニューロダイバーシティに関する未邦訳の重要論文を取り上げ、数回の投稿に分けて詳しく解説を加えていきます。世界の潮流を日本語で簡潔に理解するためのお手伝いができればと考えています!
最初に取り扱うのは、国際生命倫理協会(International Association of Bioethics)の公式ジャーナル「生命倫理」(Bioethics)に掲載されたJonathan A. Hughes氏の論文、自閉症の不均質性はニューロダイバーシティのパラダイムを崩すか?(Does the heterogeneity of autism undermine the neurodiversity paradigm?)です。
なお、この論文はインターネット上で無料公開されています。↓↓↓
この論文を扱う理由は様々なのですが、大まかに言えば以下の三つです。
①ニューロダイバーシティに関する簡潔かつ精密な解説がなされている
②ニューロダイバーシティをめぐる最新の賛否両論が丁寧に提示されている
③論文の著者が医療倫理と法律の専門家であり、ニューロダイバーシティの議論が属する医学・法律学・倫理学の3分野においていずれも十分な知識のもと執筆されている
まあ、それと、最後は直感ですね、直感。(笑)
冗談はさておき、早速論文を読んでいきましょう!素晴らしい論文であることに変わりはないので!
【概要】を読む
この論文の概要では、ニューロダイバーシティという語彙が以下のような形で簡潔に定義されています。
“Its central claims are that autism and other neurodivergent conditions are not disorders because they are not intrinsically harmful, and that they are valuable, natural and/or normal parts of human neurocognitive variation.”
(その中心的な主張は、自閉症やその他の神経多様性は本質的に有害ではないため障害ではない、そしてそれらは人間の神経認知的変化の貴重な、自然な、そして/あるいは正常な部分である、というものだ。)
Jonathan A. Hughes.(2020). Does the heterogeneity of autism undermine the neurodiversity paradigm?(p.1.) https://www.researchgate.net/publication/342206568_Does_the_heterogeneity_of_autism_undermine_the_neurodiversity_paradigm
ニューロダイバーシティは、自閉症を中心とする非定型発達の傾向を「障害」と位置付ける現代医学に異を唱える主張です。そしてその主張の根拠は、こういった非定型発達が「有害」でないということにあると述べられています。この「有害」とは、社会にとって有害だとかいう話ではなく、個人の自立した生活に支障を及ぼすか否かを示す言葉として使われています。
そして、ここがニューロダイバーシティを語る上での大きなポイントなのです。よく誤解されがちなのですが、ニューロダイバーシティは全ての「障害/障碍」の定義に対して異を唱える主張ではありません。例えば、生まれつき身体の一部が欠損している方に対し、それを日常生活を送る上での「障害/障碍」と定義づけ、日常生活を送る上で必要な公的支援を提供する行為は責められるべきではありません。
しかし、自閉症を中心とする非定型発達の傾向に関しては話は別です。果たしてこうした非定型発達は、支援を受けるべき「欠損」なのでしょうか。それが「個性」として是認されない根拠はどこにあるのでしょう。ニューロダイバーシティは、こうした疑問を思想として形にしたものなのです。
【はじめに】を読む
【はじめに】では、この後の議論への導入として、ニューロダイバーシティを批判する意見が紹介されています。
“The idea of neurodiversity has also been a subject of fierce controversy. Some parents of autistic children and parent-led organizations, as well as some autism researchers and some autistic people, have accused neurodiversity advocates of presenting a sanitizedview of what autism can be like and deflecting attention and resources away from the struggles of more severely affected individuals and their families.”
(ニューロダイバーシティーの考えは、激しい論争の対象にもなってきた。自閉症児の親や親主導の団体、自閉症の研究者や自閉症者の一部は、ニューロダイバーシティの提唱者が、自閉症がどのようなものであるかについて衛生的な見方を示し、より深刻な影響を受ける人やその家族の苦労から注目や物資供給をそらしていると非難している。)
Jonathan A. Hughes.(2020). Does the heterogeneity of autism undermine the neurodiversity paradigm?(p.1-p.2.) https://www.researchgate.net/publication/342206568_Does_the_heterogeneity_of_autism_undermine_the_neurodiversity_paradigm
こうした意見はつまり、精神的非定型発達も身体の欠損と同じく日常生活を送る上での「障害/障碍」であり、その定義に基づいて支援が提供されねばならないとする立場からの、ニューロダイバーシティーへの反論です。ニューロダイバーシティの考えはともすれば当事者にとって必要不可欠な支援を止めてしまう、多様性という綺麗な言葉で片付けるな、と言っているわけです。これはニューロダイバーシティ推進派の我々も向き合わなければならない課題です。抜本的な主張には必ずリスクが伴います。
そして、上記の批判の医学的根拠として、自閉症症状の「不均質性」(heterogeneity)が挙げられています。
“That challenge arises from the heterogeneity of the condition (or conditions) to which the neurodiversity paradigm is supposed to apply. −(中略)− The suggestion that autism is too diverse for the concept of neurodiversity to apply may seem paradoxical, but if we look beyond the terminology and consider the purportedly general propositions about autism that are asserted by at least some formulations of the neurodiversity paradigm, then we will see that the paradox is only apparent.”
(この課題は、ニューロダイバーシティのパラダイムが適用されるはずの状態(または条件)の不均質性から生じている。−(中略)− 自閉症は多様すぎてニューロダイバーシティの概念は適用できないという指摘は逆説的に思えるかもしれないが、用語を超えて、ニューロダイバーシティのパラダイムの少なくともいくつかの形式によって主張されている自閉症に関する一般的命題と称するものを考えてみれば、逆説は見かけだけであることが分かるだろう。)
Jonathan A. Hughes.(2020). Does the heterogeneity of autism undermine the neurodiversity paradigm?(p.2.)
https://www.researchgate.net/publication/342206568_Does_the_heterogeneity_of_autism_undermine_the_neurodiversity_paradigm
自閉症症状が多様な診断基準を容認していること、つまり症状が一様でないことが、ニューロダイバーシティの議論の前提を覆すかもしれないと言いたいようです。これについては、後の章で医学的な考察も含めつつ重点的に取り上げられているので、その時に詳しく紹介していきたいと思います!
今回はここまでにしたいと思います。次回は序章の第2節におけるニューロダイバーシティの詳細な説明を取り上げ、その後は本論のムズカシーイ議論を噛み砕いてお伝えしようと考えております!
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