自閉スペクトラム(ASD)やADHDなど発達障害に関する概念として、「ニューロダイバーシティ」というキーワードが広まりつつあります。
しかし、ニューロダイバーシティを理解する上で欠かせない概念である、「ニューロダイバーシティ・パラダイム」は、まだ知名度が低いです。
そこで、この記事では「ニューロダイバーシティ・パラダイム」とは何かについて解説していきます。
そもそも「ニューロダイバーシティ」とは?
まず、ニューロダイバーシティ(神経多様性)とは、自閉スペクトラム(ASD)やADHDなどを含む知覚や思考のスタイルの多様性のことです。一人ひとりの脳は異なっているため、すべての人はニューロダイバーシティの一部であるとも言えます。
詳しくは、こちらの記事も御覧ください:
ニューロダイバーシティとは?当事者が解説

「パラダイム」とは?
パラダイムとは、ある時代や分野で共有されている、物の見方や考え方の暗黙の前提・枠組みのこと。
科学哲学者トーマス・クーンの著書『科学革命の構造』で提唱された概念です。
例えば、かつて天文学では「地球が宇宙の中心である」という天動説のパラダイムに基づいて研究が行われていました。
しかし、その枠組みでは説明できない事実が見つかっていくと、新しいパラダイムが提唱されることがあります。天文学では「地球が太陽の周りを回っている」という新しい地動説パラダイムが普及した為、物事の考え方の前提が根本から変わりました。
ニューロダイバーシティ・パラダイムとは?
ニューロダイバーシティ・パラダイム(Neurodiversity Paradigm)は、近代における「人間の脳や心には唯一の“ふつう”で”健常”なスタイルがある」という暗黙の前提に対して、疑問を投げかけるものです。
その背景として、従来の考え方ではいくつかの課題が生じていました:
- 当事者へのいじめ・偏見・違法な差別などを正当化しようとする材料に使われてしまっている
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少数派の特性を持つニューロダイバージェントの当事者が「異常」だと考えて、「正常」(多数派と同じ振る舞い)にしようとすると、むしろ「カモフラージュ」(masking)と呼ばれるメンタルヘルスの悪化を招いてしまうことがある
- 「ふつう」の脳を想定して画一的な教育制度や職場環境をつくると、それと異なる特性の人が排除されてしまう
- 認知科学など様々な学術領域で、例えば二重共感問題などの「人間の脳や心には唯一の“ふつう”で”健常”なスタイルがある」という考え方では説明しづらいような研究結果が増えてきた
それに対して「ニューロダイバーシティ・パラダイム」は、「発達障害」の傾向など、人間が世界を認識・思考して行動するあり方が多様なこと(神経多様性)自体は自然で価値のあることだという見解です。そして、民族・文化・ジェンダーなど他の多様性と同様に、神経多様性(ニューロダイバーシティ)も社会的な不平等に晒されており、これを解決することは(個人の幸福はもちろん)社会や組織の存続とイノベーションのためにも重要だと考えます。
「社会的な不平等」というと抽象的ですが、例えば「相互協調的自己観」と呼ばれる文化においては、周りに合わせることが強く求められるため、周りと異なる特性を持つ自閉スペクトラム症やADHDなどの当事者は、別の特性に無理に合わせ続けて疲弊したり、「周りと違うから」といじめや差別を受けたりしてしまう可能性が考えられます。実際、自閉スペクトラム症の当事者を社会が受け入れている割合を国際比較した研究では、相互協調的自己観の傾向が強い日本では自閉スペクトラム当事者を最も受け入れていないという状況が示されました。もちろん日本社会においても歴史的に自閉スペクトラム当事者が活躍した事例はありますが、相互協調的自己観の傾向であっても互いの自分らしさを大切にしていくことで、より多くの人が活躍できる社会に繋がっていくかもしれません。
経営や教育などへの応用
このようにニューロダイバーシティ・パラダイムは、もともと自閉スペクトラム当事者の生きづらさをもとに人権運動の中で形成されてきた考え方です。一方で、ニューロダイバーシティを導入することは、組織にとってもイノベーションの促進やエンゲージメントの向上などの利点があります。そこで、近年では企業・政府・軍隊・教育機関などでもニューロダイバーシティ・パラダイムを取り入れる動きが広まっています
参考資料: